「お祭り吠え」にはおいしいものを

配達の人や来客に吠えかかる、というのが『ポッキー』の飼い主さんからの相談でした。お宅に伺ってみると、ポッキーは門の向こうでワンワン吠えながら、右へ左へと走り回っていました。さすが若い柴犬、元気がありあまっています。

吠え方から判断すると、攻撃的ではなさそうでした。実際、私が家の中に入ってしまえば、友好的ですぐに落ち着きました。警戒心もそれほど高くなさそうです。声の調子や表情から、人がやって来るというイベントに対してただ興奮しているようでした。「わー、来た来た、人が来たよ!」と騒いでいる感じです。私はこの吠え方を、攻撃的に不機嫌そうに吠える「警戒吠え」に対して「お祭り吠え」と呼んでいます。

「吠え」の問題行動を改善するには、その原因を正しく突き止めることが大切です。以前、ポッキーのお宅では、ご家族のみなさんが留守のときにセキュリティーシステムが誤作動し、警備会社の方が駆けつけてきて家じゅうを点検するという出来事があったそうです。セキュリティー会社から「何事もありませんでした」という連絡をもらったご家族は、まずポッキーのことが心配になって尋ねたそうです。

すると、「え?ワンちゃんいたんですか?」との返事。ポッキーは吠えるどころか、隠れてしまったようです。知らない人が勝手に家に入ってきて怖かったんですね。しかし、家族がいないときに吠えないのでは、留守中の番犬にはなりません。期せずして判明したことではありますが、ご家族は、セキュリティーのシステムを入れておいて本当に良かったと実感したそうです。

番犬の本能から出る「警戒吠え」、恐怖からくる「パニック吠え」とは違って、ポッキーのように人が来ることに対し興奮して吠える「お祭り吠え」は人が家にいるときに起きるので、人の動きなどに影響を受けている可能性があります。ドアホンが鳴ったときに飼い主さんがあわてて受話器に向かって走る、八ンコを探して家じゆう駆け回るなど、お祭りの気持ちを盛り上げる行動は慎むことが必要です。

このポッキーのケースは、「吠えないで!」と指示するよりも、「オスワリして靜かにしたらいいことがあるよ」と学習させたほうがいいでしょう。

いつでも指示に従ってもらうためには、愛犬との関係が大事ですので、飼い主さんには、正しい関係を作るためのベースプログラムを実施してもらいました。せっかくトレーニングしても、飼い主さんの指示には従わないようでは困るからです。

それからドアホンのトレーニングもしてもらいました。まず、ドアホンが鳴った時に行くための、ポッキーの場所を作ってやります。お気に入りのマットやクッションを、玄関から少し離れたところに置いてやります。ポッキー宅の場合は、階段下にちょうどいいスペースがありました。

最初は、ドアホンが鳴ったら「マット!」など居場所を表すキーワードを言いながら、マットやクッションヘ誘導します。誘導するには、鼻先に食べものをちらつかせ、興味を持ったらそのままマットまで連れて行きます。興味が引けないおやつはこの場合には使えませんので、犬がとても好むものを探してやりましょう。マットヘ誘導したら、その上で「オスワリ」または「フセ」の指示を出し、従ったらおやつを与えます。時間を稼ぎたい場合には、マットの上での「マテ」のトレーニングを強化するか、おやつが仕込めるおもちゃなどを使うとよいでしょう。

これで、ドアホン⇒「マット」と指示を出す⇒マットまで誘導する⇒フセさせる⇒ごほうび、という流れになります。これを繰り返して、だんだん誘導する距離を減らしていき、最終的には、ドアホンが鳴ったら自らマットに乗って座るようになるまでトレーニングします。使うおやつは、玄関へ行きたい気持ちに勝てるくらい好きなものにしなければ、このトレーニングはうまくいきません。ご注意ください。

もともと食いしん坊のポッキーは、おいしいものがもらえることもあり、問題行動が改善されるのにあまり時間はかかりませんでした。それはもちろん、素直で穏やかな性質と、柴犬という犬種が持つ高い訓練性能も手伝ってのことだと思います。

いまではドアホンが鳴ると、うれしくて(?)ひと声ふた声は吠えてしまうものの、マットの上で「フセ」で待てるようになりました。

「ドアホンが鳴る⇒おいしいおやつがもらえる⇒人が現れる」という「お祭り」を楽しむポッキーの姿を想像すると、私もうれしくなってしまいます。