お宅へ伺ったとき、まだ幼い柴犬の『リンゴ』はサークルに入れられていました。少々広めなので、中で元気に飛んだり跳ねだり、楽しそうにしていました。おしっこもちゃんとシートの上にできましたので、サークルから出してみることに。
リンゴはうれしそうにダイニングテーブルの周りを2、3周走り回ると急に立ち止まり、何とまたおしっこをしました! さっきハウスでしたばかりなのに、です。
すると奥さんが甲高い声で、「あらあら~、リンゴちゃん~」と言いながら、あわてて廊下へ出て行きました。リンゴは、なぜか自分
のおしっこから離れずじっと廊下を見つめています。するとその方向から、奥さんがぞうきんを片手に小走りで戻ってきました。床にしゃがんで、ハタハタと床をふき始めたそのとき、リンゴはぞうきんめがけて飛びかかりました。そしてあっという間に奥さんの手からぞうきんを奪い取り、それをくわえて走り出しました。お約束です(笑)。
リンゴは上手に逃げながら、ダイニングルームを楽しそうに走り回ります。
「キャー! リンゴちゃん、ダメでしよ!こら、こら、こら!」
「あなたI(ご主人)! ほら、そっち行ったわよ、捕まえて!」
「あら、何やってんの、へたくそね」
「のろいのはお前だよ、ほらそっちへ行ったぞ!」
家族総出で、とっても楽しそうです。リンゴの目的は、「飼い主さんからぞうきんを奪って追いかけっこをすること」でした。
柴犬のリンゴは「シートの上でおしっこをしてもぞうきんは出てこないけど、床ですると出てくる」と学習していたのです。犬は、うれしいことや楽しいことが起きたとき、それを引き起こしたきっかけとなる行動を繰り返すようになります。これが犬の学習システムです。
人間も同じかと思いますが。この場合、追いかけっこを引き起こした行動は「床におしっこをする」です。
この学習をさせないためには、どうすればいいでしょう? 楽しいことが起きないようにすればよいのです。おしっこをされたら、まずリンゴをハウスに戻してゆっくりと片づけてください。「すばしっこくて捕まえられない」という場合は、ハウスから出すときにリードを着けておけばいいのです。
「ハウスに入れたら、どのくらいで出してやればいいですか」というご質問も多いのですが、答えは「飼い主さんの気が済むまで」です。まさか、わざと粗相をしたのに、片付けたらすぐになんて出してやりませんよね?
「粗相をしたら、ハウスに逆戻り」という学習を、淡々と教えればいいのです。参考までに、最低でも30分~1時間くらいはハウスの中で過ごす必要があるのではないでしょうか。
犬はぞうきんだけではなく、ティッシュペーパーでも大盛り上がりすることがあるのでご注意ください。
リンゴの飼い主さんには、トレーニングの実施と、子犬が粗相をしても決して騒がず、まずは子犬をサークルに戻してから、片づけをするようにアドバイスしました。ゲージから出すときには必ずリードを付けるようにして、追いかけっこにならないようにしてもらいました。そしてサークルに戻したら、数時間は放っておくように、ともお願いしました。
柴犬は必要な運動量が多いので、お散歩はできるだけ毎日、可能であれば朝夕それぞれ1時間くらい出かけていただくことにしました。
また奥さんが慌てがちな性格だったため、子犬を興奮させてしまわないよう、高い声を出したりハタハタした動きをできるだけ控えてもらうこともお願いしました。荷物が届いても、落ち着いてゆっくりとインターホンまで行くこと。電話を取るときはゆっくり受話器を上げること。できるだけ低い声で静かに応対すること。決してハンコを探して部屋じゅうを走り回ったりしないことなども。
その後、リンゴはとても落ち着いた女の子に成長しました。そんなリンゴにちょっぴりさみしそうなご主人がひと言。
「リンゴも落ち着きましたが、家内もだいぶ落ち着きました」。